まず、「建替え推進委員会」では、コンサルタントや設計会社さんとともに「どんな建物にするか?」を多く議論しました。そして2014年、4社のディベロッパーさんにコンペという形で提案をしてもらいました。それぞれ良い内容でしたが、住民は還元率が気になっていましたね。還元率100%であると住民の費用負担がないというわけです。野村不動産さんは100%を提示していただきました。各社のプレゼンはとても優れ、どうしても上手な会社が印象に残ります。ですが、今回決定した野村不動産さんのご説明の中で、「合意形成なくして建替えなし」という言葉に私はとても心が打たれました。合意形成とその先の建替えまで、私たちにしっかりと寄り添ってくれるという強い意思を受け取ったと思います。
板橋区の約1.8haの広大な敷地。約500戸の大規模マンションに生まれ変わる。
「向原第二住宅団地」建替え事業
永く過ごした住まいだからこそ、建替えに対する住民の皆さまの想いも様々です。
10年以上におよぶ建替えの実現に、私たちはしっかりと寄り添ってまいりました。
住民の80%建替え賛成が必要となる合意形成に向けて
建替えを検討されたきっかけを教えてください
【小ノ澤理事長】
向原第二住宅が建てられて約35年が経つ頃、建物の老朽化もあり、住民全体でアンケートを実施しました。建替えをすぐ行う、10年以内に行いたい方が6〜7割くらいいたのです。2005年頃でしたか、その頃に建替えの検討がスタートして、当時「住環境検討委員会」が立ち上がりました。そしてまず耐震診断を行いました。
するとIs値が非常に低くて、震度6強の地震がくると倒壊の恐れがあることが判明しました。しかし、住民の中には耐震補強をして建替えないという意見の方もおり、建替え推進と反対、意見が分かれることになってしまいました。この意見の相違の調整にかなり長い時間がかかったことが一番苦労したことと言えますね。
それから数年後についに「建替え推進決議」が団地内で成立して、正式にコンサルタントを決定し、建替えの検討を進めていきます。ですが、ここから先には、事業協力者の選定、都市計画の認可、一括建替え決議の成立(住民80%の合意)と難関なハードルが続きました。
合意形成までで苦労されたことをお聞かせください
2014年以降も、「合意形成なくして建替えなし」という言葉はその後の推進にも大きな原動力となりました。私も理事長として、「皆さまの理解を得ながら進めていきますのでよろしくお願いします。」と最初に発信したことを覚えています。皆さまに「建替えないと危ない」ではなく、「建替えると本当に楽になりますし、 地震が来てももう絶対安心ですから」など、 そういう説明をさせていただきました。この話し合い期間もかなり長く4〜5年はかかったと思います。
さらに困難な壁は続きます。建替えをするに当たり、全体のプランを立てて、都市計画認可のために板橋区に提出しました。ですが区に大規模なマンションの建替えの前例がなく、なかなか認可が下りず、当時まだ反対される方もおり、この期間も長く大変でしたね。
数年後、2019年に都市計画がついに決定。ここで流れが大きく変わりましたね。板橋区に都市計画が認められたとなると住民全体で「建替えが実際に進むのだ」という意思が強まり、70%超えで停滞していた合意も一気に進み、2020年「一括建替え決議」(80%の賛成)成立、合意形成が無事に実現しました。建替え検討開始の時より約15年、本当に長く苦労した道のりであったと思います。
既存樹を再建マンションの緑化やアートに活用
広大な中庭や既存樹活用についてお聞かせください
旧向原第二住宅は非常に緑が豊かなところでした。大きな公園があって、幾本もあった桜の木はご近所のお花見スポットでもありました。本当に綺麗でしたね。敷地西側のケヤキも保存樹として残されていますが、そのケヤキも旧向原第二住宅が建てられた時に植えた樹木なのです。
永く記憶に残る緑の風景を遺したい。今回の建替えでも「緑多い環境にしたい」というリクエストをしました。野村不動産さんは、しっかりとリクエストに応えてくれて、この中庭だけではなく敷地内に広がる広場の緑も含めて自慢できる私たちの風景となっています。
敷地南側の公開空地には建替え前の団地にあった「しだれ梅」を移植しています。住民だけではなく、街行く人がかつてここにあった梅の開花を楽しめれば本当に嬉しいことだと思います。他にも仕方なく伐採した既存樹をこのマンションの各所で活かしています。例えば桜の木、これはメインエントランスのオブジェとして活用しています。さらに思い入れのある桜以外の樹木も加工して、共用部の壁のオブジェやベンチ、カウンターに利用することで、かつての土地の記憶を次の世代や時代へと伝えられたらいいなと思っています。
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